悪女・やり手女から学ぶシリーズとしまして、過去にプルースト『失われた時を求めて』、ブルトン『ナジャ』等を取り上げましたが(*現在非公開)、今回はオースティン『コーマン高慢と偏見』です。
世界最高峰の女流作家によって200年前に書かれた恋愛小説ですが、サマセット・モーム「世界十大小説」では二番目に上げられたり、漱石がひれ伏さんばかりに大絶賛したことでも有名です。ヒロインのエリザベスとダーシーは「世界で最も有名なカップル」と称されたりもします。
話の筋は、ヒロインが紆余曲折を経て名家のイケメンと結ばれるというもので、一見ごりごりの少女漫画的なシンデレラストーリーです。
が、しかし。
実はこれがかなり厄介なのですよね。
表面的にはピュアな恋愛小説に見せかけておいて、実は「自分の力のみでシンデレラ・クエストを達成する」っていう、かなりギラギラした話なのです。
自力で、つまり魔法使いの力を借りず、自分よりずっとハイスペックの相手を落とす、しかも倒すだけに留まらずうまいこと飼いならしてしまうw、っていう話なのですね。
しかもそこで使われている恋愛・コミュニケーション技術は余裕でNLP級でヤバいのですが、それをこの小娘は、表面的には無垢に振る舞いつつ、しれっとやるのですよね、がっつり意図的なくせに!
シンデレラって家族から奴隷みたいな扱いを受けているので忘れがちですが、一応は王室の舞踏会に呼ばれるほどの生まれ=貴族クラスであり、絶世の美女なので、魔法使いの助けでドレスをゲットし、まともに着飾りさえすれば、王子に求婚されてもおかしくはないスペックを元から持っています。
しかしシンデレラ自身の実力はほぼ皆無で、「受け身でひたすら無垢に振る舞う」くらいしか能のない小娘にすぎません。継母と連れ子に苛められてしくしく泣いてるだけで、せっかく生まれ持ったスペックを魔法使いなしではまったく使いこなせないのです。
王子が娶ってもおかしくないスペックを既にもってしまっており、さらに魔法使いの力も借りれてしまうので、シンデレラ自身が行うクエスト内容は「用意された馬車に乗って舞踏会に行き、午前零時の鐘がなる前に帰ってくればいい」というだけです。たったそれだけでクエストは完了。もはや「初めてのお使い」レベルですね。
もしかしたら、継母と連れ子たちがシンデレラを虐めたり、舞踏会に行かせないように仕組んだのも「こいつのせいで自分たちが霞む」と妬んでいた以上に、「下手したらこいつマジ王子とか落とせんじゃね?」とシンデレラの高スペックをむしろ認めいたためかもしれません。
一方、エリザベスは大した家の生まれでもなく、準スト高程度なので、名家で大金持ちでイケメンでプライドも高いダーシーとのスペック差はすさまじい限りです。完全に身分不相応、しかも周りはハイスペックのライバルだらけっていう、厳しい状況です。
つまりエリザベスはこのスペック差と状況の厳しさを、己の人間力のみ(圧倒的なトーク力、もの腰、メンタルの強さ)でカバーし、しかも相手より完全に上を行くほどのやり手なわけです!
本来、エリザベスのスペックでは「ダーシーを落とすのは無理ゲー」です。もって生まれたスペックを最大限活用しつつ、さらに実際よりも何倍も自分を魅力的に見せたとしても、結婚にこぎつけるのは桶狭間の戦いほどの難易度だったでしょう。
そのクエストを、自分の力のみで達成しなければいけない。ドラクエでもファイアーエムブレムでもロードオブザリングでも魔法使いなしで戦うのは完全に無理ゲーですが、それをエリザベスはやってのけるわけです。
不利な状況から、一番のハイスペック男子をかっさらう。
しかも対等な関係、とかではなく、スペック上のダーシーの方から下手に出てこさせてしまう!
まさにすご腕ナンパ師のような女なのです!
倒される相手のダーシーですが、超強敵です。原作でもイケメンとなってますが、映画版では
高身長でガタイもあり、甘さと男っぽさを両方兼ね備えたようなハイスぺです。
アゴの割れ目にお供え物でもしたくなりますよね、イケメンすぎて!
それにしても男子読者としては、いくら相手が悪かったとはいえ、こんなヤバいイケメンが小娘にじわじわと倒されていくのですから、「うーむ、してやられてるなあ!」「にしても、せめてもう少し反撃に出たってよくね?」って、歯がゆい思いをしまくり、読後感も「なんかしっくりこんぜ~」ってなるのですが、しかしなんにせよ、この世界の玉のこし小説から学ぶところは鬼のようにたくさんありますので、エリザベスのすご腕ナンパ師・NLP催眠級の手口を見ていきたいと思います!